「へぇ~本当にあたしとそっくりですね」
大介が雪枝の写真を見せたら、小日向穂香という応募者も驚いた。
「こちらの雪枝さんのお兄さん、悠治くんはうちのシナリオライターです。悠治くんは、雪枝さんの結婚相手に気に入らないせいで、かなり落ち込んでいて、仕事が全然進まないです」
大介は適当に話をいじって、事情を穂香に伝えた。
「あらら、大変ですね。でも、分からないことでもないですわ。お父さんやお兄さんによくある気持ちですね。実は、私も恋人のことで家族と揉めたことがあります」
穂香はふんわりと笑った。
雰囲気からすると、彼女は明るくて、優しい性格の子だと大介が判断した。
「ああ、だから、予め説明しておきたいと思います。最近、オレはいろいろ試していて、悠治くんを励んでます。そのうち立ち直ると思いますが、その前に、ご迷惑をかけるかもしれません。ご理解をいただけると助かります」
「反町さんはいい人ですね。落ち込んでいる仕事仲間を切るのではなく、励むのですね」
穂香は優しく微笑んだ。
大介が彼女を「回復のカギ」として使おうとすることに全く気付いていないようだ。
「これも何かのご縁だと思います。厚かましいですが、小日向さんも適当に悠治くんを励んいただけますか?雪枝さんとそっくりの小日向さんの励みがあれば、彼はもっと早く立ち直るでしょう」
「ええ、もちろんですよ。仕事仲間ですもの」
穂香は快諾した。
こんないい子を利用することからの罪悪感が半端じゃないが、大介にはほかの方法がない。
それに、雪枝にそっくりの穂香に巡り合うことは、きっと神様が不運の彼に授かった助け船だと、大介は何処かで信じている。
「雪枝!?」
スタジオに入った穂香の姿を見たら、悠治は慌てて床から起きた。
「紹介します。今日から、チームに参加する小日向穂香さんです」
「!!」
「雪枝、じゃない…?」
悠治は数秒間戸惑ったけど、すぐに大介の企みに気づいた。
「よくもここまで……!」
「すみません、どうしても悠治さんのストーリーに気になって、話を聞こうと戻ってきました……」「いいえ、いいんだ」悠治が去ったので、大介と穂香は程よい距離で座ってゆっくり話をした。「すみなせん、あたしがもっとしっかりしていれば、何本のオチを変えられるはずなのに……」「小日向さんに非はない。あいつの考えは固執すぎるだ」「……正直ね、あたし最初、悠治さんが変な人だと思って、うまく仕事ができるかなと心配したけど……」「最初だけ?」大介は思わず口を挟んだ。「?」「いいえ、なんでもない、続けて」「はい……」穂香はとりあえず、気にせずに続けた。「でも、悠治さんが修正してくれたものを見て、同じ物語を作る人として、負けた気がしました。反町さんが彼と一緒に仕事したい理由もちゃんとわかりました」「いや、それは……」大介は反論しようと口が滑ったが、さっそくブレーキをかけた。「?」「なんでもない」「はい」穂香は多く聞かずに続けた。「両親にトラウマがあるかもしれませんが、悠治さんは、本当にこの仕事が好きだと思います」「……」なんだか、話の噛み合わない人間が一人増えたようなが気がした。大介は眉間を摘んだ。「いつも真面目に直してくれて、一緒に雰囲気を盛り上げるためのセリフを検討してくれて、いろいろおもしろいトリックを加筆してくれました……このままギクシャクになって、進めなくなったら、悠治さんも寂しいと思います。ですから、あたしが直してあげてもいいなら、精いっぱいやります」「それはありがたい……」今となって、大介は不思議に思った
ほかの人が帰ってから、大介は資料を持って、悠治のいる部屋に入った。エネルギーを使い切ったのか、悠治の体は活気が一切消えて、芋虫から繭に進化した。大介は悠治の寝込んでいるソファに資料を落とした。「クォリティは褒めてやる。親とエンディングのとこを修正しろ」「……」「小日向さんに確認した。ほぼお前の仕上げだろ」「……」「二人の名前で作品を出すから、小日向さんが親に恨みを持つ変態に思われてもいいのか?」「……」穂香の事ときたら、悠治はやっと動きがあった。「……嫌だ……」「お前の言いなりになりたくない」「お前の言いなりになりたくない」悠治がいつものセリフを返したら、大介は同時にそのセリフを喋った。「だが、これはオレの言いなりではない。オレたちは商売をしてるんだ。ユーザーの気持ちを考えなければならない。ワンパターンのオチは飽きちゃうし、ネタバレにもなる」「気にいらないなら使わなくていいだろ」振り向かずに、悠治は悶々と拒絶し続けた。「気に入ったから、修正してほしんだ」「……」大介は口調を強めた。そうくると思わなかったのか、悠治は思わず耳を立てた。「やればあのエロ小説くらいのクォリティを上げられると思ったが、思った以上だ。正直、驚いたよ。オレが思っていることをこのようにピッタリ表現できたシナリオライターは初めてだ――」「……」その予期せぬ褒め言葉に、悠治が少しだけ活気を取り戻し、毛布もほんの少しだけ解いたが、「親のオチさえ修正すれば」「……」その最後の一言添えに悠治はまた繭の状態に戻った。「修正しろ。お前には才能がある。オレのとこで
数日後、悠治と穂香の努力で、新しいシナリオが6本も上げられた。そのクォリティは今までのない素晴らしいもの。構成や文章力がしっかりしていて、企画の意図や売れポイントをうまく表現しているだけではなく、一見飛び切りな設定とトリックにも合理的な解釈がつけられて、企画原案にあるいくつのバグも修正された。大介は感服した。「いろんな意味」で感服した。穂香にいろいろ確認してから、アシスタントたちを呼び出して、試読み会を開けた。穂香は同席したが、悠治は連日の徹夜で、ほかの部屋で芋虫になっている。「すばらしいです!おもしろい!」「イメージが鮮明になって、これでもっといい道具が作れる!」「ぞくぞくしたぜ!小日向さんは天才だな!」案の定、アシスタントの三人は、まず褒め声を上げた。「ありがとうございます」穂香は照れそうに笑った。「実は、あたしは基本的なものを書いただけで、ほぼ悠治さんの訂正と加筆です」「謙遜しなくていい!」「いえいえ、本当のことです。他人の功労を自分のものにしてはいけません」「確かに、小日向さんは一部しか担当していない」大介は顔を引き締めて、話を検討したいところへ誘導した。「この前にも二人でいろいろ確認した。今日の試し読み会で、よいところだけじゃなく、違和感のあるところについてもみんなの意見を聞きたい。内容にツッコミところがあれば、遠慮なく言っていい」「……」「……」「……」大介の真面目な態度に微妙の何かを感じて、三人のアシスタントはお互いの顔を見た。「どうぞ、何でも言ってください!これからの仕事の改善になるから!」穂香は三人の背中を押した。「引いてい言えば、キャラ設定?だな……あと、全部バッドエンディング、だよ
シナリオライターだから在宅でもいいのに、もともと仕事熱心か、悠治を励むためか、穂香は頻繁的にスタジオに足を運んだ。「今日は、この二つの企画のシナリオ構成をお願いしたい、悠治くんと分担してやってください」「はい、分かりました」大介から仕事を受領した穂香はさっそく悠治に話しかけた。「あの、悠治さん、企画のシナリオ構成、一本をお願いできますか?」「そんなダメ企画……いいえ、なんでもない、任せてください!」進捗を見て、大介はどんどん仕事を振り分けた。「こちらのキャラの背景資料とキャラ付けをお願いしたい。分からないことがあれば、悠治くんに聞いてくれないか?」「はい、やります」「悠治さん、キャラ資料の作り方を教えていただけますか?」「俺もよく分からない……調べますから、ちょっと待ってて!」なにより、穂香は大介の指示通りに動いてくれて、見事に悠治のエンジンになった。いままでサボりまくりの悠治は、穂香の指導をするために、やむを得ず、徹夜に仕事の勉強をした。別の意味で、大介のスタジオから離れなくなった。「もういいだろ。これは三日目だ。家に帰って休んでいいよ」今夜も徹夜で資料と奮闘する気の悠治に、大介はコーヒーを運んだ。「お前のいいなりになりたくない……」目の下にデカいクマができている悠治は反射的にコーヒーに手を伸ばし、一口飲んだ。「にがっ!」その濃烈な味に顔を締めた。「エクスプレス3倍濃縮、徹夜に効果的」「言ってることとやってることが違うだろ!!」「そちらこそ、オレの言いなりになりたくないと言ったくせに、オレが運んできたコーヒーを飲んだんじゃないか」「コーヒーに罪はない!それに、小日向さんのために
「へぇ~本当にあたしとそっくりですね」大介が雪枝の写真を見せたら、小日向穂香という応募者も驚いた。「こちらの雪枝さんのお兄さん、悠治くんはうちのシナリオライターです。悠治くんは、雪枝さんの結婚相手に気に入らないせいで、かなり落ち込んでいて、仕事が全然進まないです」大介は適当に話をいじって、事情を穂香に伝えた。「あらら、大変ですね。でも、分からないことでもないですわ。お父さんやお兄さんによくある気持ちですね。実は、私も恋人のことで家族と揉めたことがあります」穂香はふんわりと笑った。雰囲気からすると、彼女は明るくて、優しい性格の子だと大介が判断した。「ああ、だから、予め説明しておきたいと思います。最近、オレはいろいろ試していて、悠治くんを励んでます。そのうち立ち直ると思いますが、その前に、ご迷惑をかけるかもしれません。ご理解をいただけると助かります」「反町さんはいい人ですね。落ち込んでいる仕事仲間を切るのではなく、励むのですね」穂香は優しく微笑んだ。大介が彼女を「回復のカギ」として使おうとすることに全く気付いていないようだ。「これも何かのご縁だと思います。厚かましいですが、小日向さんも適当に悠治くんを励んいただけますか?雪枝さんとそっくりの小日向さんの励みがあれば、彼はもっと早く立ち直るでしょう」「ええ、もちろんですよ。仕事仲間ですもの」穂香は快諾した。こんないい子を利用することからの罪悪感が半端じゃないが、大介にはほかの方法がない。それに、雪枝にそっくりの穂香に巡り合うことは、きっと神様が不運の彼に授かった助け船だと、大介は何処かで信じている。「雪枝!?」スタジオに入った穂香の姿を見たら、悠治は慌てて床から起きた。「紹介します。今日から、チームに参加する小日向穂香さんです」「!!」「雪枝、じゃない…?」悠治は数秒間戸惑ったけど、すぐに大介の企みに気づいた。「よくもここまで……!」
「いますぐ悠子を出せ。話はまだ終わっていない」大介はなんとか悠子の仕業だと説明して、芋虫に戻ろうとする悠治を呼び止めた。「俺だけじゃなく、悠子様までいじめるつもり?」悠治は冷笑した。「どっちがどっちをいじめてたのか、自分の胸に手を当ててみろ……」その厚かましさに大介は仰天した。「言っておくけど、悠子様に何があったら、俺は死んでもお前を道連れにするからな」「……」ああ、やっぱり同じ人間か……大介は頭を抱えて、自分の不運を嘆くしかできなかった。あれから、カフカ小説のように悠治の芋虫化が進んでいる。夜中に悠子がでてきて、お風呂や着替えをするけど、やはり大介の家から離れないし、ロクな文字も書かない。小説削除や写真返還の件に触れる度に、悠子は秒で消える。その我慢比べの状況を打破するために、大介はいろいろ試みた。食事で誘惑、言葉で精神攻撃、体を叩く……けど、どれも雪枝の一通の応援電話に敵わなかった。ある日、雪枝と15分くらい電話をする間に、悠治は布団から出てきた、信じられない速さでパソコンを叩いて、一本の企画ラフを完成した。やはりこれしかないかと悟った大介は、善良な人間としてのプライドを捨てて、徹底的にシスコンの弱みを利用すると決意した。数日後、雪枝の3D印刷等身大パネルが突如にスタジオに現れた。「雪枝さんが見てるぞ、さっさと真面目にやれ」大介は悠治を布団から引っ張り出して、パネル雪枝を見せた。更に、手元のスピーカーのリモコンを押して、パネル雪枝を喋らせた。「お兄ちゃん、頑張って!ずっと応援しているから!」「……」悠治が肩が震えて、パッとリモコンを叩き落とした。「こんなものに騙されるものか!妹の写真と声を使って変態みた